第一巻

1. 時間売ります 40代前半、若き歌丸の新作落語。時間を売る「タイムセールス株式会社」なる怪しげな会社を舞台に風刺の効いた物語が展開。会社は大繁盛しますが１年後…。意外なサゲが待っています。
2. 小言比べ 町内の小言名人の二人が神経質そうな歌丸とどこかマッチしている一席。特に小言ばあさんは秀逸。また、歌丸ならでは（？）の髪の毛ネタで会場の爆笑をさらいます。
3. 釣りの酒 有崎勉こと、落語芸術協会創設者である柳家金語楼作の一席。この一席の台本には「サゲはお任せ」とのこと。自らも川釣りを愛する歌丸が選んだサゲは…。
4. コピー美人 美人になりたい女性たちがテーマの新作。今のご時世ではなかなか演じづらい（？）一席で貴重です。80年代の女性がなりたい顔にも時代が現れます。
5. いが栗 民話のような古典の一席。マクラには疎開時代の想い出も登場します。三味線に合わせた大芝居は思わず息を飲む出来。歌丸の語りの巧みさがよく現れる一席です。
6. 藁（わら）人形 人間の怒りや哀しさを描いた古典の名作。騙された男の悔しさと怒りをはらむ渾身の演技で観る者を引き込みながら、ことわざを用いた切れのいいサゲが滑稽味を醸し出します。

第二巻

7. 化粧術 歌丸オリジナルの一席。実家が遊郭で化粧品セールスの経験も持つだっけあって女性の化粧の所作は天下一品。短い噺ながら、とにかく笑えます。
8. 鈴ヶ森（すずがもり） マクラはスリの話。かんざしを抜き取る様で観客を沸かせます。本題でも泥棒の親分と間抜けな手下のどこか微笑ましいやり取りを描きます。子分の呆（ほう）けたような表情も絶品。
9. 引越の夢 新任の美人女中を狙う男たちを描いた大人の色気噺。演じるのは下心満載の男どもでも、あまり下品さを感じさせないのは歌丸ならではの“品”か、それとも恐妻家ゆえか…。
10. 素人鰻（しろうとうなぎ） テンポの良さもさることながら、この噺の見どころはなんといっても鰻の形態模写。まさに名人芸と言える出来で、このネタは海外公演でも大ウケだったそうです。
11. 団子兵衛（だんごべえ） 古典の団子兵衛とは異なる、有崎勉こと柳屋金語楼作の一席。頑固者の床山（とこやま）が情にほだされる様は歌丸の優しい人柄が垣間見えます。サゲに向かう後半の畳み掛けは必見です。
12. つる 構成が単純で登場人物も少なくいわゆる“前座ネタ”と言われる噺ですが、そこは歌丸。心地よい江戸の話し言葉で一席としての味わいは抜群。歌丸を代表する演目の一つです。
13. 後生鰻（ごしょううなぎ） 信心深いご隠居としたたかな鰻屋、鰻屋の女房の掛け合いが見事。どこか童話のような明快さから歌丸ならではのサゲに至るテンポが絶妙。初心者にも楽しい一席。
14. 狐（きつね）裁き 公募で寄せられた台本を演じた一席。人を化かす狐に翻弄される人々、特に親しみやすい殿様には思わず笑みがこぼれます。きれいなサゲにも注目です。

第三巻

15. 樟脳玉（しょうのうだま） マクラでは歌丸少年が落語家を志したときの想いや(有名な)奥様とのエピソードが語られます。本題では泥棒を企む二人の会話をテンポよく演じ笑わせてくれます。
16. 毛（もう）せん芝居 劇中劇の「許してくだされ文弥殿」で有名な通称『文弥殺し』では三味線、太鼓に合わせた演技が圧巻。話術だけではない、歌丸の総合的な演者としての凄味が見える一席。
17. 万金丹（まんきんたん） どこまでも不真面目な坊主を真面目な歌丸が演じているその落差に笑える一席。サゲは現代風にわかりやすく手を加えており、ここにも歌丸落語の優しさが垣間見えます。

第四巻

18. おすわどん 歌丸自らが20世紀初めごろの口演速記から発掘し、後に五代目三遊亭圓楽にも教えたという一席。こういった古典の発掘も、歌丸の落語界への大きな貢献です。
19. 長命 伊勢屋の養子が三度も続けて亡くなったワケをご隠居と八っつぁんの(勝手な)想像で綴る有名な一席。艶っぽい妻を演じるのも歌丸ならお手のもの。
20. 城木屋（しろきや） 「評判娘」、「伊勢の壷屋の煙草入れ」、「東海道五十三次」の三題噺（※）。サゲまでの長台詞はまさに熟練の名人芸。マクラは落語の歴史について。歌丸得意の一席。
21. くやみ なかなか難しいお悔やみの言葉。次々登場する間の抜けた弔問客には思わず吹き出してしまいます。気の強い妻の描写が歌丸夫婦を彷彿させ(？)、さらに笑いを誘います。

※寄席の観客にその場で適当な言葉やテーマを出してもらい、即興で演じる落語のこと

第五巻

22. お茶汲（く）み 吉原ならではの男の見栄と女の打算の化かし合いを小気味よく演じます。実家が遊郭の歌丸とあって、こ狡（ずる）く世慣れた花魁（おいらん）の所作も実に見事。納得の一席です。
23. 紙入れ 「町内で知らぬは亭主ばかりなり」。江戸の川柳の題材で多いのは“間男” だとか。肝の据わった御新造と心配性の間男、ちょっと間抜けな旦那を見事に演じ分ける技が光ります。
24. お化長屋 杢兵衛がじっとり聞かせる怪談話と、それを聞く職人のべらんめぇ調の落差に思わず笑ってしまいます。歌丸の語りの幅と巧みさがよく現れている一席です。

第六巻

25. ねずみ 歌丸が開設に尽力した「にぎわい座」での一席。しっかり聞かせる人情味溢れる語りは歌丸の持ち味が遺憾なく発揮されています。かわいらしいサゲにも頬が緩みます。
26. 三年目 マクラは夫婦生活の噺。歌丸の優しい所作と語りが妻のなんとも言えない女心と夫への愛を感じさせます。サゲは、歌丸との見た目の落差に吹き出すこと請け合いです。
27. 竹の水仙 「ねずみ」に続き名工・左甚五郎（ひだりじんごろう）の噺。大きく構える甚五郎と人のいい大黒屋の主人のドタバタ劇がなんとも滑稽です。いくつかあるサゲの中から歌丸が選んだのは…。

第七巻

28. お見立て マクラから本題まで遊郭が舞台。客商売とはいえ、どうしても会いたくない客がいるのも人情。花魁のために真面目な顔で客に大嘘を吐く喜助を歌丸は嬉々として演じています。
29. 厩火事（うまやかじ） ダメな男に不釣り合いないい女房。周りが首を傾げるような夫婦は、今も昔も変わらずいるようです。健気な妻の女心と亭主のダメっぷりの落差を見事に演じた一席。
30. 小言幸兵衛（こごとこうべえ） 歌丸の巧さが光る一席。幸兵衛の小言が壮大な“妄想”に発展し、まるで劇中劇のようになっていく様を淀みない語り口で熱演。対する豆腐屋の江戸っ子らしい啖呵も聞きものです。
31. 井戸の茶碗 正直者の登場人物たちに真面目な歌丸はぴったり。途中の五代目圓楽への“イジリ”もその仲の良さからでしょう。歌丸本人も特に楽しそうに演じている一席です。
32. 鍋草履（なべぞうり） 六代目春風亭�蜍ｴ（りゅうきょう）から譲り受けた噺。「汚い噺ほどきれいにやれ。さらっと終われ」とのアドバイスがあったそう。小遊三師匠の歌丸落語おすすめの一席です。

第八巻

33. 質屋庫（しちやぐら） マクラの通り貧乏時代によく質屋に通ったからか(笑)、質屋に関する歌丸得意の一席。ファンタジー要素も詰まったどこか微笑ましい噺です。
34. 壷算（つぼざん） 堂々と勝手な論理で瀬戸物屋を煙に巻く徳さんの口調が憎たらしくて秀逸。春風亭昇太師匠が「神経質な歌丸師匠とぴったり」とおすすめする珠玉の一席。
35. 鰍沢（かじかざわ） 江戸末期、三遊亭圓朝によって作られた傑作サスペンス。心の機微の表現、そして特異な鳴り物付きの芝居など歌丸の本領発揮。大ネタですが、時間を感じさせません。
36. 紺屋高尾（こうやたかお） これも大ネタの人情噺。長くお蔵入りにしながら、時間をかけて温めていた渾身の一席です。男の真摯で一途な愛と、それに応える女を品のいい語り口で表現した歌丸の真骨頂。
37. 小間物屋政談（こまものやせいだん） 大岡裁きの噺。個人的に親交のあった六代目三遊亭圓生のテープを擦り切れるほど聞いて身につけたとか。歌丸生前最後に演じたのも、この「小間物屋政談」でした。